2017-09

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【050】精緻で美しい大正時代の邸宅「旧柳下邸」vol.3

3週にわたった小笠原真美さんによる横浜・根岸の邸宅でのイヴェントレポート、今週でいよいよ完結です。
過去の記事はこちら→
【048】精緻で美しい大正時代の邸宅「旧柳下邸」vol.1 【050】精緻で美しい大正時代の邸宅「旧柳下邸」vol.2
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海食崖


今回は番外編として柳下邸のある根岸周辺の様相などについて書いてみます。

 古くから根岸一帯は、根岸湾に面した風光明媚な地であった。最近そのことを知る機会を得た。
 一つは6月で営業を終えた横浜プリンスホテル(磯子駅)での「グランドフィナーレ写真展」であり、もう一つは根岸にある、各地の古建築を集めた庭園、三渓園での「開園100周年記念野外写真展昔むかし」からである。2つの写真展で明治時代から昭和40年代までの美しかった、この地に集う楽しげな人たちの姿を見た。

旧東伏見宮別邸


横浜プリンスホテルは、昭和12年築の旧東伏見宮別邸を客室としてスタートした。もともと、ここに別邸が建てられたのは宮の病気療養のために見晴らしのよい高台にとの理由であった。三島由紀夫の小説「春の雪」で、「海を見下ろす高い崖上にあり御殿風の外観を持った洋館には大理石の階段がついていた」という文章は、ここがモデルと言われている。この建物は戦前の別荘建築であり現存している。旧東伏見宮別邸を背景にして庭に並べられたテーブル席で大勢の人が、笑顔でお茶を飲んでいる写真からは、潮風が匂い立つようであった。

 三渓園では印象的な写真を見た。三渓園海岸と記されている絵葉書状のもの。山のような崖のような場所の下にある岩場で、着物やマントを着た大人と子供が夏でもないのに岩遊びに興じている。端の方には小船が写っている。よく見ると山のような崖のようなものは、私が立っている目の前の景色とそっくりだ。現在では海がないが、ここが撮影場所だったのだ。崖は怖いような形状なのだが、それであっても、何とのどかで、面白くて、いい風景だろう。

三渓園


根岸湾は漁業、海苔の養殖が行われ、磯遊びや海水浴の場所でもあった。この地を愛でる人が多く、明治後半より居留外国人の住宅が建てられ、後に日本人の別荘地ともなり、やがて交通網の発達などにより、住居の本宅化が進んだ。
 三渓園開園も、実業家の原氏が海に面した海食崖(波の浸食で出来た崖)のあるこの場所に自邸を建てたことから始まる。後に数々の歴史的建造物を移築し、若手の芸術家を育成する場所ともなる。
 また三渓園近くの八聖殿は、やはりこの地を愛した政治家、安達謙蔵が建てた住居で、法隆寺夢殿を模した三層楼八角形の建物である。内部には日蓮、親鸞など、安達が選んだ聖人8人の像を8人の彫刻家が制作したものがある。安達は2階のベランダから、現在は見ることの出来ない、海を眺めるのが好きだったそうだ。ここは現在、郷土資料館となっていて昔の漁業、海苔の養殖の様子を知ることが出来る。

 同じく根岸には日本初の本格的競馬場があった。そこは宮家の人々、外交官、政財界の有力者などの社交場になっていた。跡地は現在、森林公園となっている。このように、明治から昭和40年代までの間、根岸は美しく華やかな地で、ここを訪れた著名人は数知れない。 しかし昭和30年代から40年代にかけての埋め立て、工場誘致で根岸の風景は大きく変わる。海の位置は変わり、漁業、海苔の養殖はなくなり、現在、駅から見えるのは石油コンビナートである。

 柳下邸はこのような土地に建った。訪れた時、道路から見上げて目に入るのは斜面緑地を背景に建つ姿である。それは、こういう場所を随分、探しまわったのではないか、あるいは、この地を見て、ここに自分の思うような家を建てよう、と決めたのではないか、と思わせる光景だった。緑地はまさに柳下邸の一部として存在している。かつては家の前面から海が望めた。柳下氏も根岸湾への眺望を求めたことは確かだろう。今は、ここからも海は見えない。
 今の時代では、たとえ財力があっても望む地に望むような家を建てることはたいそう難しい。柳下邸の建った頃は、根岸に住むことが人の夢や憧れになっただろうが、現在の東京近郊では、景観を含めての、住みたい街を見つけること自体が、夢のような話ではないだろうか。

三渓園2


根岸の風景は変わったが、残っている建物があり、今、見ることができるのは幸いである。三渓園では建物の一般貸し出しをしていて、イベントを行うことも出来る。開園100周年イベントでは創始者の実績にならい、一般に作品発表の場が提供された。柳下邸では素晴らしいイベントのほかにいくつかの手作り講座もやっている。
 先人が手を時をかけて、いとしんできた場所を味わい、多くの人が、小さなことでも、何かを感じ、何かを生み出していくことと思う。

【完】
(小笠原真美/パフォーマンス・アーティスト)

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テーマ:建物探訪 - ジャンル:学問・文化・芸術

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